研究内容

プロジェクトの内容

概要

本プロジェクトでは、量子コンピュータのハードウェアを量子的に結合して分散型の大規模量子コンピュータの実現に必要となる量子通信ネットワークの研究開発を行います。具体的には、マイクロ波光子と量子メモリ、量子メモリと通信用光子をそれぞれ量子接続する量子インターフェース技術の開発を行い、最終的にこれらを融合することで計算用量子ビットと通信用光子間の量子インターフェース技術を確立します。
詳しい内容はこちらの動画をご覧ください。

マイルストーン

2030年までに、量子インターネット構築への大きな第一歩、量子中継ネットワークの基礎を構築します。 2025年までに、ダイヤモンド量子メモリとオプトメカニカル結晶を融合した、次世代のハイブリッド量子インターフェースを開発し、量子メモリ同士の量子接続が可能になります。

2023年までに、最適な量子光源、量子メディア変換などの技術開発により、ハイブリッド量子インターフェースの実現が可能になります。

研究開発項目

     ダイヤモンド量子メモリ

ダイヤモンド量子メモリの研究開発
ダイヤモンド中の色中心を用い、量子的な論理動作が可能で量子誤り耐性をもつ量子メモリを開発します。

ダイヤモンド量子構造の研究開発
ダイヤモンドの電荷状態の安定化やフォトニック結晶、フォノニック結晶などのダイヤモンドナノ加工技術を開発し、ダイヤモンド量子メモリのプラットフォームとなる量子構造を作製します。

  ダイヤモンド量子結晶の研究開発
適切な濃度の不純物を有する高純度なダイヤモンドをCVD成長(化学気相成長)し、量子メモリとして良好に機能する色中心が形成可能なダイヤモンド量子結晶を作製します。

 ダイヤモンド色中心の研究開発
量子インターフェースの要素機能となる高効率の量子もつれ発光あるいは散乱が得られ、長時間の量子状態保持が可能な色中心の生成条件を探索します。

     オプトメカニカル共振器

  フォトニック結晶光共振器の研究開発
光子場の増強のためのフォトニック結晶共振器をダイヤモンドを母材として作製します。

  フォトニック結晶光共振器実装技術開発
ダイヤモンドオプトメカニカル結晶の光回路との結合を検討します。

  フォノニック結晶音共振器の研究開発
音子場の増強のためのフォノニック結晶共振器をダイヤモンドを母材として作製します。

     ピエゾマイクロ波共振器

  ピエゾマイクロ波共振器の研究開発
ピエゾ共振器とマイクロ波共振器を連結することにより、高効率なマイクロ波と音子の相互変換を可能とします。

  量子制御電子集積回路の研究開発
ダイヤモンド量子メモリおよびピエゾ共振回路を高速かつ高忠実に量子制御する電子集積回路を作製します。

  量子インターフェースの理論研究
超伝導量子ビットと通信波長帯光子量子ビットを高い効率・忠実度で量子力学的に結合するためのインターフェース開発に関する理論研究を進めます。

技術解説

量子テレポーテーション

図:量子テレポーテーションのイメージ。シュレーディンガーの猫と呼ばれる量子の状態を離れた場所にテレポート(科学雑誌Newton様ご提供)
図:量子テレポーテーションのイメージ。シュレーディンガーの猫と呼ばれる量子の状態を離れた場所にテレポート(科学雑誌Newton様ご提供)

テレポーテーションとは、SFで物質を瞬間移動することを意味しますが、これは不可能です。ところが、量子(りょうし)の世界ではこれが可能です。 量子というのは電流の構成要素である電子(でんし)や光の構成要素である光子(こうし)といった波のように振る舞う根源的な粒子のことです。この波のような性質を、離れた場所に瞬間移動のように伝える技術を量子テレポーテーションと呼びます。我々はこのような量子テレポーテーショ ンをダイヤモンドを用いて実現しました。

ダイヤモンドの中の小宇宙

ダイヤモンドは炭素(12C)で構成されています。この炭素の一つが欠け(左図中のV)、その隣の炭素が窒 素(左図中のN)に置き換わった複合欠陥をNV中心と呼びます。その周囲には、中性子が一つ多い炭素同位体(13C)が天然で約1%存在します。このような量子の小宇宙で、光子と中性子を「量子もつれ」という状態にして、光子から中性子への量子テレポーテーションの実験を行いました。量子もつれとは簡単にいうと、離れた地点にある2つの量子が相互関連性を持つ状態のことです。

量子もつれと光子の吸収で状態を転写

図:ダイヤモンドの中で行われる量子テレポーテーションの原理図
図:ダイヤモンドの中で行われる量子テレポーテーションの原理図

量子テレポーテーションの原理を説明します。まず、欠陥に捕まった電子と炭素同位体の中性子を量子もつれ状態に準備します。その後、外から入ってきた光子が電子に吸収されて特殊な状態に遷移したときに、光子の状態が炭素同位体の中性子に転写されます。この際、中性子は光子とは直接相互作用していないため、テレポーテーションに例えられます。

量子インターネットの世界へ

図:量子インターネットのイメージ(科学雑誌Newton様ご提供)
図:量子インターネットのイメージ(科学雑誌Newton様ご提供)

量子コンピュータを使うと、これまでのデジタルコンピュータでは宇宙の終わりまで計算時間を要するような問題に数日で答えられるようになります。私たちは、量子テレポー テーションを繰り返すことで、この量子コンピュータを量子通信でつないだ量子インター ネットを構築しようとしています(右図)。 量子インターネットの実現により大量のデータを安全に送受信できるようになり、社会が大きく変わると考えられています。世界に量子インターネットが繫がる瞬間をとても楽しみに待ち望んでいます。